
新世代の都市型ロック・ミュージック・バンド、昆虫キッズによる、約2年ぶりのニュー・アルバム『こおったゆめをとかすように』が完成。豊かな都市という仮面に隠れた貧しい世界を、どこかストレインジな感覚を含んだサウンドで描きます。そこにあるのは見落としがちなリアルな日本の若者による世界観。悲壮感だけでなく、どこか楽天的でもある、そんな矛盾しているとも思える世界が鮮やかに浮かんできます。2012年、生まれるべくして生まれた名作。
昆虫キッズ / こおったゆめをとかすように
【Track List】
1. 街は水飴 / 2. Little Boy / 3. 桜吹雪だよ / 4. ASTRA(Album Mix) / 5. 主人公 / 6. メモリーズ / 7. CHANCE / 8. 若者のすべて / 9. クレイマー、クレイマー / 10. 非常灯に照らされて / 11. 裸足の兵隊(Album Version) / 12. BIRDS
【販売形式】WAV / mp3
【販売価格】
mp3 単曲 150円 / アルバム 1,800円
wav 単曲 200円 / アルバム 2,400円
試行錯誤した結果手に入れたロマンチックな表現
昆虫キッズのことをずっと真っ直ぐなロック・バンドだと思っている。彼らは常に都市で生きることがどういうことなのかを音や言葉にしようとしている。簡単に彼らのディスコグラフィーを振り返ろう。2009年のファースト・アルバム『My Final Fantasy』は、Velvet Undergroundの都市の裏側にある多様性を表すかのような実験的なアレンジ、Style Councilのようなシティ・ポップのきらめき、ナンバーガールの影響を受けたのかと思われる焦燥感に満ちたギター・ロックが未整理のまま投げつけられたような一枚だった。そのサウンドの上では聞いているとやや不安になってくる音程で<恋の予感 薄目で見るゾンビの映画のように何度も何度も覗いてる 誰もいない埋立地であなたとエロいことしたいのよ何度も何度でも>(まちのひかり)と歌われていた。そこにはジャンクなものの上に成り立っている青春が描かれていた。その翌年の2010年に出された『text』は、アレンジは多彩さになりつつ質も上がり、同時にライヴで練られたバンド・サウンドが前面に出て焦燥感も増したアルバムになっていた。歌詞には前作にも見られたゲームやアニメからの引用が増え、生活とフィクションの境目を積極的にかく乱させることでリアリティを醸し出しているようだった。そして、2011年に「裸足の兵隊」と「ASTRA/クレイマー、クレイマー」の2枚のシングルを出し、それらを含んだサード・アルバム『こおったゆめをとかすように』がリリースされた。

『こおったゆめをとかすように』でも彼らは着実に歩を進めている。Dirty Projectorsの曲のリズム・アプローチや展開を思わせる1曲目「街は水飴」、マリンバが印象的な5曲目「主人公」、70年代~80年代のディスコを下敷きにした7曲目「CHANCE」、サンバ調のパーカッションが響く10曲目「非常灯に照らされて」など一聴してアレンジの幅を広げていることがわかる。これは彼らが最初から持っている資質をよりよく発揮できている結果だが、前作と異なる部分もある。それがヒリヒリするような緊張感を持った曲があまりないことで、代わりに80年代のネオ・サイケデリアやネオ・アコースティックに括られていたナイーヴなギター・ロックのような雰囲気を持つ8曲目「若者のすべて」、11曲目「裸足の兵隊」、12曲目「BIRDS」といったアルバム後半の曲たちが耳をひく。歌詞にもわかりやすい変化がある。まず、ゲームなどからの引用が今作がなくなった。そして、<歪まずと届けあの子まで 果てそうな祈りはここにある>(街は水飴)、<新しい優しさ 実はとっても大事にしていた>(若者のすべて)といった心情表現がはっきりと言葉にされるようになった。特に王道的なピアノ・バラード曲の9曲目「クレイマー、クレイマー」は今までの彼らにはなかった曲だろう。また、「主人公」の「薔薇撒くアトム 双葉町にて>という直接的に東日本大震災に言及した言葉も入っている。彼らの表現は、歌詞においてはよりストレートになっているのだ。
まとめると『こおったゆめをとかすように』はとてもロマンチックなアルバムだ。それは彼らが常に試行錯誤した結果として手に入れた表現だということが今作を聞くとわかるだろう。音楽的に言うと、ネオ・サイケデリアやネオ・アコースティックへの接近は重要だと思う。これらのジャンルはポスト・パンクやニュー・ウェーブといったロックの解体を目的としたムーヴメントの後に出てきたもので、そこでは一度ばらされてしまった音楽を自分たちの手で立て直す必要があった。ネオ・サイケデリアなら60年代のサイケデリック・ロック、ネオ・アコースティックなら60年代のロック、ポップスに加えてボサノバやジャズを参照し、新たなロックのあり方を模索した。そして、そこにはポスト・パンクやニュー・ウェーブで避けられがちであったロマンティックさがあった。今作の昆虫キッズはバンド自体がそうした流れを半ばたどってきた結果、80年代のギター・ロックに接近したように見える。アメリカのインディー・ロックを中心にリアルタイムで海外の音楽を参照しつつ、自らの必然としてこのように音楽を発見していくロック・バンドはなかなかいないだろう。アルバムの最後を飾る曲「BIRDS」の歌詞に<きっと大丈夫 足元ぐらついても ことばを集めて>とあるが、昆虫キッズはまさにそれを実践し、自分たちの音楽を作り続けている。それこそが凍った夢を溶かすことなのだろう。(text by 滝沢時朗)
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PROFILE
昆虫キッズ
メンバー : 高橋 翔(Vo,G)、佐久間裕太(Dr)、冷牟田敬(G,Key)、のもとなつよ(B,Vo)
2007年 東京都にて結成。自主制作音源の発売や企画ライヴを行い徐々に売り上げ、動員を伸ばしていく。
2009年 1st album『My Final Fantasy』を全国発売し注目を集める。
2010年 2nd album『text』は、各誌年間ベスト・アルバムに選出されるなどロング・セラー化。
2011年 1st single『裸足の兵隊』、2nd single『ASTRA / クレイマー、クレイマー』をリリース(本2作のカップリングで2012年、アナログ10インチEP発売)。
2012年 2年振りとなる3rd album『こおったゆめをとかすように』を発表する。